『切なる想い』







早く、早く





伊織は心の中で小さく、強く、同じ言葉を繰り返していた。
丈の兄が運転する車の中で、伊織は今か今かと、指をかじりながら目の前の開かずの踏切を見つめている。



「落ち着くぎゃ!伊織!!」



アルマジモンにそう言われるものの、伊織はまったく落ち着くことが出来なかった。
普段は冷静沈着、落ち着きのある伊織。
しかし今はとても冷静ではいられなかった。



その原因は、仲間の危機。
大輔達の目の前で大切な仲間の一人、一乗寺賢が攫われたのだ――…



伊織は、賢を仲間と認めるまでに他のメンバーよりも時間がかかった。
お互い素直になれず、関係がぎくしゃくしていたが
仲間として共に戦う内に、二人は徐々に心を開けていった。
先日賢が招待してくれたクリスマスパーティには、笑い合えるようになった位だった。



―やっと一乗寺さんの事…分かることができたのに―……



それなのに、どうして。
賢は危険を顧みず、自らトラックに乗って行ってしまった。
止める事が出来なかった。何故止めることが出来なかったのだろう。
大輔みたいに、声をかけることすら出来なかった。
そんな自分を、伊織は悔やんでいた。



もしも手遅れになってしまったら?



敵の魔の手に落ちた今、賢を守れるものは誰もいない。
最悪の事態を考えると、伊織はぞくりと背筋が震えた。



「一乗寺さん……大丈夫でしょうか」
「伊織?」
「もし…もしも、手遅れになってしまったら……っ」



言葉が堰を切ったように、伊織の口から出てきた。
募る想いは、もう口に出さずにはいられなかった。
大切な、やっと分かり合えた仲間の安否に
伊織は心配で押しつぶされそうになっていた。



「大丈夫だよ、伊織君」
「タケルさん…」


伊織の気持ちを察したのか、タケルはそう声をかけた。
すると、前の席に座っている大輔も


「心配すんな!賢は必ず助け出す!!俺達を信じろっ」


と、伊織を励ました。


「大輔さん…」



タケルの言葉は、伊織に優しく響いた。
大輔の言葉は、伊織に力強く響いた。



仲間の声。そう、大輔達も賢が心配なのだ。
それが伊織に伝わり、伊織はやっと落ち着くことが出来た。
自分は一人じゃない。
伊織は肩の力を抜き、深呼吸してから答えた。



「皆さん、すみません…アルマジモンも、ごめんね。もう、大丈夫です」



不安も心配も、全くなくなった訳ではない。
でも仲間のおかげで、気持ちが和らいでいくのを感じた。
賢を信じる。信じている仲間を信じる。
そう信じようと、伊織は気持ちを新たにし、しっかりと強く前を見つめた。



「いきましょう!僕達の仲間を…一乗寺さんを助け出すために」



「おう!!」という、仲間の力強い掛け声を乗せて
車は再び、大切な仲間の元へと走り出した。









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初のデジSSが伊織になろうとは…(笑)
いや伊織が嫌いな訳ではなく、あれだけ賢ちゃん好きなのに、デジ初SSが伊織になろうとはヨソウガイだっただけです^q^
他にも色々文字考えていた中、勢いで出来た伊織SS。02第44話の伊織の話です。
車の中で、指をかじって苛立つ伊織の映像がずっと脳裏に焼き付いて離れません…。
仲間である賢の事が、心配で仕方が無かったんだろうなと。
仲間と認めるまでに時間がかかっただけ、余計に意識していたんじゃないかと思います。
折角賢の方から歩み寄ってくれたり助けてくれたりしてるのに(笑)恩を仇で返すような態度の伊織w
一度こうと決めたら曲げられない。融通が利かない。そんな頑固な所が可愛いんですけどね伊織君は(笑)
クリスマスでようやく和解しあえたシーンを見られた時は、ほっとしたのでありました^^
それからあまり時間が経たぬ内にあの事件…
いつか、賢側の視点からも書いてみたいなと思ったり。
以上、伊織初SSでした!ここまで読んで下さり有難うございました^^
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